『「子どもの発達障害」に薬はいらない』のレビューと感想
子どもの発達障害に薬はいらないのレビュー・感想になります。
タイトル:『「子どもの発達障害」に薬はいらない』
著者:井原裕
出版社:青春出版社
発行年:2018年5月15日
発達障害は先天的な病気で治らない、
という言葉の持つ光と闇。
発達障害は、先天的な要素が強いことは、わかっています。
けれど、だから、「治らない」ということに、論理的なつながりはありません。
一見、正しそうなだけです。
先天的なものだから、治らない、と。
正しそうなだけで、そこには、科学的な根拠のあるつながりは、
私の知る限りではないように思えます。
発達障害は先天的なもの、お父さん、お母さんのしつけや育て方の問題ではない。
まだ、発達障害が広く認知されていなかったとき、
この言葉は、お互いを傷つけあう発達障害のお子さんを持つ親子を支えてくれたと思います。
でも、光があれば、影ができる。
いつしか、その言葉は、
発達障害は、先天的なものだから、治らないという意味に変化していったように思うんです。
私は最近、発達障害の改善には、
発達障害そのものを治そうとしても意味がない、効果が薄い、と感じるようになりました。
放課後デイサービスなど、
いろいろ支援をしてくれる施設や団体が増え、
そういったところに通うお子さんが増えているにも関わらず、
発達障害の改善が見られた!という声はほとんど聞きません。
というか、個人的な経験から言えば、ゼロ、です。
それは、発達障害にいいといわれる表面的なトレーニングとか、そういうことだけでは、
意味がないということだと思います。
この本は、医師の井原裕さんによって書かれました。
薬はいらない、薬じゃなくて、必要なのは「睡眠」だという、
医師の方で、発達障害という本のタイトルをいれながら、こうしたら良くなる!って本は、
私ははじめてでした。
あれですよ。
スキルトレーニング、とか、
魔法の言葉かけ、とか、
スキルの向上となんとか、とか、
そういうなんじゃなくて、
もっと、根本的に発達障害の改善が見られる【具体的な方法】を書いているという意味で、
この本は、凄い本です。
東北大学を出て、ケンブリッジ大学の博士号を取得した医師が、
発達障害の改善には、「睡眠」だと言ってるんです。
薬じゃないんですよ。
薬で、いったん、症状をおさえるのはありですが、
私も、勉強しまくって、いきついたところは、
発達障害の改善には、
- 食事、
- 睡眠、
- 親子関係の改善、
なんです。
そのうちの、睡眠の大切さや睡眠のとり方を学ぶなら、もう、この本しかありません。
この著者のレベルの本が、
1000円で手に入るとか、もはや、意味がわからないです。
私は、この著者のP65の言葉が大好きです。
引用させていただきますね。
私たち精神科医にできることは限られています。そういう意味では、嘘はつきませんし、大げさなこともいいません。正直に、誠実にお話をします。
私は、これまでに1人の患者さんも治したことがありません。
ただ、「こうしたら治ります」という提案をしてきたに過ぎません。その提案を受け入れ、生活習慣改善を実践してくださった患者さんが、自らを治療して、見事に治っていった例はたくさん見てきました。
一方で、提案に耳を貸していただけず、生活習慣が改善されないまま過ごし、治ることがなかった患者さんもいます。
ですから、どうか、患者さんご自身で努力をしてくださいということは、何度も申し上げています。もちろん発達障害のように、患者さんがお子さんの場合は、ご家族も一緒に生活習慣の改善に取り組んでいただくという意識が必要です。
発達障害と向き合うというのは、こういうことです。
最終的に、発達障害の改善というのは、
本人の努力、発達障害のお子さんであれば、家族で努力していかなければいけません。
それは、ADHDと診断されようが、
昔ながらのアスペルガー症候群だろうが、自閉症スペクトラム障害だろうが、一緒です。
発達障害は先天的なものだから、治らない。
私はよく、こういった意見を耳にします。
直接、ツイッターやブログなどで言われたこともあります。
けれど、その中の誰一人として、
こういった、生活の見直しから発達障害を治そうとする方の本を1冊も読んでいません。
あなたを助けられるのは、あなたしかいません。
あなたを変えられるのも、あなたしかいません。
そして、それが可能になるのは、
あなた自身が、未来を変えるために変わるしかないんです。
この本は、そのための大切な1冊となります。
では、この本の凄さを3つのポイントにまとめました。
1、正直
この本の著者の「凄さ」は、正直なところです。
肩書の凄い人の本は、読みにくいものが多いんです。
あと、小難しい話にもなりやすい。
でも、井原裕さんのこの本は読みやすく、
本当に正直に、誠実に書かれています。
発達障害の改善に、簡単な道はない。
そして、下手な励ましもありません。
地道に、生活習慣を整えていく、これだけです。
それを、きちんと書こうとする姿勢が、
私は凄いと思います。
これだけの肩書があると、どうしても、堅苦しくなったり、
ちょっとした裏技というか、スゴイ技を見せたくなるものですが、
そういったものはありません。
これまで向き合われてきたことを誠実に書いてくださっています。
2、薬物を否定する
あなたは、【ジェネラルルージュの凱旋】という映画を見たことがありますか?
【チームバチスタの栄光】、最近なら、嵐の二宮和也さんの【ブラックペアン】で有名な、
海堂尊さんの作品の1つです。
この映画版で、救命救急センターをつぶして、精神科のでっかい病棟をつくるっていう案が出るんですね。
ざっくりいうと、
適当な診断を出して、患者を薬漬けにして、
簡単に、継続的に、薬で儲けてやろう、と考える悪役が出てくるんです。
そうなんです。
精神的な薬っていうのは、終わりがなく、次から次へと薬物が処方され、
ほぼ永遠に、薬に頼る生活になります。
そうやって、儲けようとする医師もいるわけですし、
そういう風に誘導するために書かれている発達障害の本もいくつか見られます。
そのほうが、精神科の医師は簡単に儲けられるんですが、
井原裕さんはこれを否定します。
ただし、必要最低限の薬の処方は、井原裕さんもされるんですよ。
井原裕さんが読者に注意してほしいというのは、精神的な病気の診断を無理やりつけて、
薬を売りつける医師が、一握りではあるがいる、ということを言っているんです。
実際に、アメリカのビーダーマン事件をとりあげ、
精神の薬で子どもが亡くなった事件をとりあげています。
こういったところに切り込んでいるところも、私がいいなと思っているところです。
3、ズバズバ
さらに、すごいことは、
発達障害の人が言ってほしくないであろうことを、ズバズバ言います。
私はツイッターをしていますが、
見ていて、あんまり好きじゃないツイートがあります。
こんなツイートです。
発達障害の人が、まわりに発達障害であることをカミングアウトしたときに、
「え〜、発達障害に見えない〜。
だって、普通にできてるし〜。」
と言われて、
こっちは、そのできるまでに、すごい苦労してるんだよ!
と、怒っているツイートです。
普通にできているように見えて、
本当は、水面下でとても苦労している、というのは、
発達障害があろうがなかろうが、みんな同じなのでは?と思っていたからです。
それを、井原裕さんも言ってくれています。
私は、この言葉を、胸に刻み付けて、このサイトとこの活動を続けていこうと思います。
少し長いですが、引用させていただきます。
注意欠如多動性障害であれ、自閉症スペクトラム障害であれ、アスペルガー症候群であれ、診断名はどうでもいいのです。診断名がどれに該当しようと、該当しなかろうと、すべきことは1つ、自分の人生を生きるということです。ほかの誰の人生でもない、自分の人生を生きなければなりません。
生きることは難しい。それでも生きなければなりません。それはどんな人間でも同じです。発達障害かどうかなど、どうでもいいのです。生きなければいけません。その切実な問題を前にしては、「発達障害かどうか」などというトリビアル疑問は吹き飛んでしまいます。(トリビアルというのは、些末なこと、という意味です。ひろあ注)
生きなければいけない。しかし、自分は人と違う。では、どうするか。そう考えるところからすべてがはじまります。人と違う自分を、強引に人と同じにしなくてもいいし、そうすべきでもありません。
ただ、こころのなかの自分がいかに人と違っていても、外面だけは人に合わせていく。いたずらに周囲と摩擦を起こしても仕方ありません。疲れるだけです。外側は人々と調和して生きつつ、こころのなかでは違和感もあるでしょうけれど、そんな違和感こそ個性のなせるわざ。自分のなかの人に理解されない自分を、むしろ大切にこころにしまってほしいと思います。
こころの奥底の自分を変えなくても、表面的に他者と和していくことはできます。そうやって内と外とを使い分けることこそ、大人になっていくという意味なのです。
まさに、そういうことだと思います。
この言葉こそ、発達障害があろうがなかろうが、
どんな人にも「立ちはだかる壁」があり、その時に、思い出したい言葉です。
以上が、『「子どもの発達障害」に薬はいらない』の3つのいいところです。
ちなみに、この本のレビューを探したところ、amazonに長い長いレビューがありましたが、
睡眠の取り方で発達障害の症状が治っていく、という著者の主張を無視し、
著者のちょっとした言葉尻を捕らえた、レビューではなく、気に入らない意見のつるし上げみたいなレビューがされているので、amazonのレビューを気にしてはいけません。
1000円の本は手に入れやすいのはメリットですが、
マウントをとりたい、有名な先生、凄い先生の言葉尻を捕らえて、
俺のほうがすごいぜと言いたいだけの人も買えてしまう値段というのは、
本当に損失でしかない。
私はそう思ってしまいます。
青春出版社さんの青春新書は、1000円どころか、1万円、10万円の価値があります。
もし、手に入れて読んだなら、実践してください。
この作者のこういう書き方が気に入らないとかそんなことをしている時間がもったいないです。
すぐに、行動しましょう。
知識は、使うからこそ、意味があるんです。
もしも、日本に値段に応じて本の価格を決めるという文化があったなら、
この本は1万円以上したでしょう。
そして、1万円以上の本であれば、
きちんと読み、実践する人がもっともっといたはずです。
そこだけが悔やまれます。
この本のデメリットは??
発達障害の人を甘やかすような言葉はない、ということでしょうか。
真摯に向き合ってきたからこそ、
発達障害の人は、そのままでいいんだよ、なんて言いません。
自分の人生を生きるのに、「つらい」っていうのは、当たり前なんだ、と、言います。
でもね、アズ直子さんとか、
発達障害を受け入れ、きちんと自分の道を歩いている方は、
やっぱり、それを引き受けている。
この人の考えを厳しいと思う人もいるかもしれない。
それは、デメリットかもしれませんね。
買ってよかった??
厳しいことを書けるのは、
そこに「真実」があるからです。
発達障害と向き合うというのは、片手間でできるものではありませんし、
薬一つで、解決できるものではありません。
日々の中、もっといえば、今、この瞬間の行動でしか、
未来を変えることはできません。
だから、こういう厳しい、本当のことを言える本がもっともっと出てほしいと思います。
本気で、心から発達障害と向き合う!
そう決めた人だけが、この本の本当の価値を知ることができると思います。